筆者の主張を読む ~教材の特徴を糧として~ 「町の幸福論 ―コミュニティデザインを考える」(東京書籍6年)より

筆者の主張を読む   ~教材の特徴を糧として~ 「町の幸福論 ―コミュニティデザインを考える」(東京書籍6年)より - 東洋館出版社

「まとめ」「筆者の主張」「要旨」……。説明文の学習の中で、頻繁に登場する言葉です。

しかし、これらの用語の意味や、それらをとらえる具体的な方法を、子どもたちはしっかりと身につけることができているでしょうか。

あるいは、それが可能な国語の学習となっているでしょうか。


【今回の「問い」】

「説明文の要旨って何? どうやってまとめたらいいの?」

【習得を目指す力】

説明文の「まとめ」「主張」「要旨」を、区別してとらえることができる力

授業においては、子どもたち自身が【問い】をもち、自発的に解決しようとすることが大切だと言われます。
そのためにも、授業づくりにおいては、教師が【課題】【活動指示】【ズレ】【問い】【技】の関係を理解し組み立てていくことが必要です。
※「【問い】の解決による汎用的な力の習得」の詳細については本連載の第2回を参照

それでは、「町の幸福論 ―コミュニティデザインを考える」の、実際の授業を見ていきましょう。

「町の幸福論 ―コミュニティデザインを考える」には、次のような特徴があります。

→「話題」と「課題」を区別してとらえることを意識できる。

→題名から筆者の主張をとらえることができる。

→筆者の主張と要旨を区別してとらえることができる。

今回は特徴3として挙げた「まとめ~主張~要旨のつながりが明確である。」に着目し、子どもたちが次のような【問い】をもつ授業を組み立てたいと思います。

 

【問い】
説明文の要旨って何? どうやってまとめたらいいの?

子どもたちに「筆者の主張」に関心をもたせるため、次のような【課題】を示しました。

 

【課題】
この説明文の要旨をまとめてみよう。

説明文の学習では、「まとめ」「主張」「要点」「要約」「要旨」などの言葉が使われます。

しかし、6年生の段階でも、それぞれをしっかり区別してとらえることができていない例が多く見られます。

そのため、「要旨をまとめてみよう。」というシンプルな課題であっても、様々な【ズレ】が生じるのです。

 

【ズレ】

「わたしたちを取り巻く社会は多くの課題をかかえており、一人一人が、豊かなくらしと、それがかなうまちの在り方を考えていかなければならない局面をむかえている。」

豊かな町の未来をえがくとき、現実の延長線上に答えがないのであれば、自分で答えを作り、わたしたち一人一人が、未来の町の姿をえがき、その姿に向かいながら主体的に町作りに取り組むことが大切である。

主体的に町作りに取り組むときに、本当に豊かな「町の幸福」が生み出されるにちがいない。

要旨をまとめる方法がわからない。

要旨って何?

ここから、次のような【問い】が生まれます。

【問い】
説明文の要旨って何? どうやってまとめたらいいの?

まず、説明文の学習を通して学んできた用語と、その意味を確認します。

まとめ 具体例・事例で説明した内容をまとめている。具体的表現内容となる。(具体的内容)
主張 「まとめ」の内容をもとにして、そこからいえる内容。(具体的内容)
筆者の主張 筆者がもっとも言いたいこと。具体的なものであれば上記の「主張」と同じであり、抽象的なものであれば下記の「要旨」と同じものになる。
要旨 文章全体の中で、筆者が述べようとする内容や考えの、中心となる事柄。筆者の主張がある場合は、主張を抽象化したもの。
要点 1 つの形式段落の中で筆者が述べようとしたことを、短い文にまとめたもの。
要約 文章全体のあらましをまとめること。

いずれも、何気なく使ってしまうことが多い言葉ですが、「国語の学習の中ではどんな意味で用いるのか」ということをしっかりおさえておく必要があります。

 

注意が必要なのが、「主張」と「筆者の主張」とを区別することです。

「まとめ」や「主張」は、その文章で取り上げられている事例をもとにした具体的内容です。

それに対し、「要旨」は「まとめ」や「主張」を、事例の範囲にとどまらずに一般化し、抽象的に表現したものです。

筆者が伝えたかったのがどちらなのかによって、「筆者の主張」は、「主張」または「要旨」と同じになります。

 

「一般化」や「抽象的な表現」といった表し方を理解することができるのも、6年生ならではのこと。

小学校での説明文の学習の総まとめとして、しっかりおさえておきたいものです。

 

これらのことを踏まえると、「町の幸福論 ―コミュニティデザインを考える」の「まとめ」「主張」「要旨」は、それぞれ次のようにまとめることができます。

 

「町の幸福論 ―コミュニティデザインを考える」の「まとめ」「主張」「要旨」

まとめ コミュニティデザインは、そこに住む人々が主体性を持って、解決に取り組むとともに夢を持って、そこの本来のイメージをえがくことから始まる。
主張 豊かな町の未来をえがくとき、現実の延長線上に答えがないのであれば、自分で答えを作り、わたしたち一人一人が、未来の町の姿をえがき、その姿に向かいながら主体的に町作りに取り組むことが大切である。
要旨 コミュニティデザインによる町づくりに取り組むことで、本当に豊かな「町の幸福」が生み出される。

なお、上記の「まとめ」「主張」「要旨」は、上で挙げたものだけが「正解」というわけではありません。

前記の定義にあったものであれば構いません。

例えば、「要旨」については、「『町の幸福』が生み出される」という「抽象」の部分が含まれていることが条件となってきます。

「説明文の要旨をまとめる」というと、「まずは文章全体の内容をとらえ……」といった具合に、「内容論」に陥ってしまいがちです。

しかしそれでは、「要旨」のとらえ方が曖昧になってしまいます。

「要旨という用語の意味」や、「要旨をとらえる具体的な方法」を学ぶことで、子どもたち一人ひとりが読みの力を習得していくことが、小学校の国語の学習の最終的な目標であると考えています。

この教材の学習を通して、そのことをいま一度認識することが大切なのではないでしょうか。

 

なお、特徴1で、〈はじめ〉の部分がとらえにくいということを挙げました。

これは、〈はじめ〉の部分に「話題」と「課題」の両方が含まれているためです。

「話題・課題」と、ひとくくりに扱ってしまいがちですが、「話題」と「課題」は異なります。

  用語の意味 この説明文では……
話題 話の材料。話の内容となる事柄。 コミュニティデザインという考え方
課題 問題や題目、解決しなければならない問題。 コミュニティデザインでは、どんなことが重要になってくるのだろうか。

「課題」は、筆者による問題提起ですから、「筆者の主張」と深く関係しているので、「課題」をとらえることが、「筆者の主張」や「要旨」をとらえることにもつながります。

 

 

次回は物語「おおきなかぶ」を取り上げます。

次回もまた、一緒に学びましょう。