内容のつながりを可視化し、思考に刺激を与える板書(3年生・『ありの行列』)

執筆者: 沼田拓弥

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中学年の説明文は、これまでの低学年の文章以上に言葉の論理(つながり)」を意識した読みが重要になってきます。
今回扱った「ありの行列」は、実験・検証型の説明文です。観察→実験→結果→考察→研究と、内容面がつながっていきます。本時では、これらの内容を整理しつつ、最後には「循環型」の板書を用いることで、これらのつながりに気付く授業を創りました。

ウイルソンへのインタビュー内容を話し合うことを通して、本文内容への理解を深めつつ、文章の論理(つながり)に気付くことができる。【第2次第3時】

藤井 悦子先生

藤井 悦子先生

滋賀県・小学校ベテラン教員。立体型板書に出会い、子どもと一緒につくる板書に魅力を感じている。そして、板書の工夫により、子どもの思考が深まる実践に取り組んでいる。

A1. 低学年でも学習した「問いと答えの関係」や「形式段落の内容の確認」を最初に行うことで「これまでの学びとのつながり」を意識しました。
「インタビュー活動」は、ウイルソンに尋ねるか、ありに尋ねるかで最後まで悩みました。

子どもたちは、これまでの説明文の学習で多くのことを学んでいます。本時の導入で板書を用いて確認している「形式段落」や「問いと答えの関係」等は、既習内容です。このような「これまでの学び」は導入の5分ほどを使って確認し、授業の拠り所となるように板書にも残すことが大切です。子どもたちは授業中も板書を見ながら話すことができます。
また、本時の学習課題でもある「ウイルソンへのインタビュー」という活動は、最初は「ありへのインタビュー活動」で考えていました。教科書には書かれていない行間を生かすことで、のびのびとした表現を引き出すことができると考えました。最終的に「ウイルソン」を相手に選択したのは、行間に注目しながらも、本文に書かれていることを根拠にしつつ、インタビューの内容を考えてほしかったからです。本文と子どもたちの思考のつながりを生み出す授業を創りたくて判断しました。みなさんは、どのタイミングでウイルソンにインタビューをしてみたいと思いましたか?

A2. 前半は、黒板を4つに分けて発言を整理し、後半の問いかけによって「つながり」に気付くことをねらいました。

動画を見ていただくとわかるように、授業前半は「インタビューのタイミングと内容」を考え、その理由も含め表現することによって思考を整理しています。右から左へと並べて整理する方法もありますが、後半の「板書のしかけ」へとつなげることを考えると、黒板を十字に分けて情報を整理し、「循環型」の板書へと発展させました。
インタビュー内容の整理ができたタイミングで、「ウイルソンさんのありの観察・実験はこれで終わってしまうのかな?」と尋ねました。すると、観察・実験と考察・研究がまとまりとして見えてきて、実験の結果、新たに生まれた疑問へとつながっていきました。
この展開を行うためには、板書の視覚的効果をねらった事前の板書計画が大切ですね。矢印を活用したり、あえて「書かない部分」を作る等の工夫で、子どもたちの思考に刺激を与え、学びを深めることができます。

A3.「ありの行列」という題名に「○○」を加えることで、本時の学習内容を集約する言葉を引き出すことをねらいました。

本時の学習のまとめとして、題名に注目することで、もう一歩子どもたちの思考を深めることはできないか考えました。そこで閃いたのが、言葉を付け足し、一言で表現することで「具体→抽象」へと言葉レベルを上げる方法でした。
子どもたちは「ありの行列の○○○○」の中にどのような言葉を入れると思いますか?
「○○○○」には、「ひみつ」や「できるまで」、「おもしろさ」といった言葉が入ります。ここは、一つに言葉をまとめるよりはいろいろな解釈で言葉を引き出しましょう。そして、授業終盤のこの活動は、次時(第4時)の学習へつながります。「ありの行列」の魅力やそのプロセスに注目することで、説明文全体のつながりを視野に入れた読みができるようになります。

藤井先生循環型の効果を改めて感じた板書でした。子どもたちが考えたインタビュー内容から、観察→実験→考察→研究の繋がりを、視覚的に理解することができます。インタビューの相手をウイルソンにしたことにより、前半と後半の思考が繋がったと感じました。また、「ありの行列の〇〇〇〇」を板書に書かないことにより、学習後、子どもたちが話したくなっている姿が思い浮かびました。

沼田先生藤井先生が尋ねてくださった「学習のつながり」「視覚的効果」「思考の引き出し方」は、いずれも授業づくりの勘所です。
板書は、スペースが限られています。そのため、板書を活用した学びも何を選択して活用するかが重要になってきます。今回は、「文章の構造」「内容のつながり」「題名」に大きな役割をもたせ、板書を活用しました。これらのしかけによって、子どもたちの言葉の学びが深まります。 板書で子どもたちの力を最大限に引き出す活用法の組み合わせを考えることこそ、板書づくりの醍醐味です。

〈参考文献〉

沼田拓弥(2020)『「立体型板書」の国語授業』東洋館出版社

沼田拓弥(2021)『「立体型板書」でつくる国語の授業 説明文』東洋館出版社

沼田拓弥(2021)『書かない板書 —子どもの思考を引き出す「余白」をつくる』東洋館出版社

次回、第21回は、2月27日(火)に公開予定です。次は、5年生の「想像力のスイッチを入れよう」を取り上げます。高学年の説明文教材において、読者と筆者の距離をどのように扱うのかについて、動画を通してわかりやすく解説します。お楽しみに。